Features: Daniels
8月11日時点で日本未公開の映画『Everything Everywhere All At Once』。ミシェル・ヨー演じる中年の中国人移民、エヴェリンが家庭内トラブルを解決しながら、頑張って税金の申告をする映画です。というのは嘘です。内容を語ると全てがネタバレになってしまうため、下情報なしにとりあえず映画館に行って体験して欲しい。これは映画館のビッグスクリーンで、他の観客と一緒に、「体験」する映画です。その方が絶対楽しい。『Everything Everywhere All At Once』はまずミニシネマ系の映画館で小規模公開(配給は「ミッドサマー」などのA24!) 。クチコミで徐々に客足を増やし、今ではA24で初めて1億ドルの興行成績を得た作品にまで上り詰めました。「ミシェル・ヨーの凄さを世界が再確認した」「移民系家族のGenerational Trauma (世代間トラウマ)を描いている」、「他のマルチバース映画(マーヴェル)より面白い」「脳内トリップ」「アカデミー賞にノミネートされなかったらボイコット」など、全世界で賞賛のレビューが止まらず、YouTubeでもリアクションビデオや考察ビデオが立て続けに公開。確実に映画史に残る作品として、これからも語られ続けると私は思っています。
さて、音楽ブログがなぜ映画の話をしているかというと、私。ベルリンで上映が開始してから、屋外映画館を合わせて7回も観に行ってしまったのです。そして『Everything Everywhere All At Once』を手掛けたのは2人組の監督デュオ、Daniels (the Danielsじゃないよ)。ハリーポッターがゾンビになって屁をこきまくる『スイスアーミーマン』を撮ったあの監督です。そしてミシェル・ゴンドリーやスパイク・ジョーンズと並んで、彼らも音楽ビデオの監督としてその名を世に知らしめました。長くなりましたが、今回の特集ではDanielsの天井を突き抜けるクリエイティビティが体験できるミュージックビデオを5つ紹介します。
The Shins, “Simple Song”
最悪な父親の遺産騒動をめぐって家族が闘う、音楽ビデオというより短編映画のような作品。子ども時代へシームレスに移行したり、ダイアログを途中で挟んだり、実験的なことをしています。
Battles, “My Maschines”
「エスカレーターを降りられなくなったら?」というシンプルなアイデアを一つのミュージックビデオとして表現してしまったすごい作品。このかわいそうな青年はDanielsの映画で、スタントコーディネーターとしてまだ一緒にお仕事しているそうです。
Manchester Orchestra, “Simple Math”
走馬灯をビジュアル化した壮大な作品。低予算でもアイデアがあればここまで感動的な作品が作れるのだという、アーティストとしての強いステートメントを感じる1本です。Danielsの二人はもともとドラマとモーショングラフィック、アニメーションを専攻していたらしく、カメラワークや編集、ビジュアルエフェクト(手作り)での実験が垣間みえます。
DJ Snake & Lil’ Jon, “Turn Down For What”
「なんかむちゃくちゃ壊したくなる」をテーマに、伝染する性欲(?)でむちゃくちゃに壊しまくったDanielsの代表作。これでMTVアワードを受賞しています。主人公のアジア人はDaniel Kwan、監督の一人です。お馬鹿で下品すぎるアイデアもとことん攻めたらここまで面白くなる。
Passion Pit, “Cry Like A Ghost”
Danielsの編集テクの巧みが存分に味わえる作品。恋愛の痛みをシームレスなシーン変移と絶妙な振り付けで表現しています。これどうやったの?と少し頭が痛くなりました。
グーニーズのデータが20年ぶりに銀幕に登場したとか、ジェイミー・リー・カーティスの税務署のおばさん役がはまりすぎているとか、ソーセージフィンガーとか主題歌のMitskiとDavid Byrneのコラボレーションとか、隠れADHDを映像化しているとか、湯浅正明の映画にインスパイアされているとか、ビジュアルエフェクトを7人でやったとか、色々言いたいことはあるのですが、とりあえず絶対に見に行ってほしい。なぜ私が7回も観に行ってしまったのか、わかるはずです。
Photo source:Joyce Kim