Zoom: Cuushe, “Magic” with Tao Tajima & Yoko Kuno
Zoomでは印象的なミュージックビデオのクリエイターに話を伺い、制作の裏話や秘められた想いなどを掘り下げます。
夢うつつなドリームポップサウンドで国内外から評価される京都出身のソングライター、Cuushe。今週金曜日、7年ぶりの新作アルバム『Waken』をflauからリリースします。その先行シングルとしてミュージックビデオとともに公開された”Magic”はライブでも頻繁に演奏されていたトラックで、今回のアルバムのコンセプトに合わせて歌詞やサウンドにエディットが加えられています。Cuusheによると、”Magic”のテーマは「女性の連帯」そして「黙らない」ことだそう。
「最初は友人の恋愛関係からインスピレーションを得て作っていました。その友人は恋愛関係で悩んでいて、相手から一種のガスライティングのようにコントロールされているようでした。その人は、私にとってはそのままで大事な、大切な存在だったし、それで苦しむのは違うな、と感じました。 私も自分の中で「違う」と感じたこととか、怒りとかを言葉にすることはずっと苦手だったのですが、必要なプロセスだと思ったんです。 誰だって何かに囚われてることはあって、友達の場合は付き合っている人だったけれど、同じことは職場でもあるかもしれないし、人間関係とか住んでる場所とか慣習みたいなものだったり、恋愛だけじゃない。”Magic”では、声を上げることによって現状を壊したり、逃れられたり、という『希望』について歌っています。」
現状の破壊。そして新しい自分への孵化というテーマは、新作『Waken』を支えるコンセプトにもなっています。自身に起きた凄惨な事件を乗り越え、彼女が新しく打ち出したサウンドは、内省を拒否。リバーブに包まれていた声はよりクリアになり、外に広がるダンサブルなビートも、新しいチャプターへ進み出すような力強さがあります。それは決して強がりや独りよがりではなく、周囲をインスパイアするようなあたたかい勇気と優しさで満ち溢れており、彼女の強い意思を感じさせます。
今回のZoomではそんな”Magic”の制作に携わった映像作家、田島太雄さんとCuusheとアニメーターの久野遥子さんに、制作の裏側や作品に込められた思い、Cuusheとのコラボレーションについてお話を伺いました。
ディレクター兼、映像作家、田島太雄さん
“Magic”はCuushe、田島さん、久野さんと、3人のコラボレーションにより実現した映像作品となっています。田島さんの担当した部分を教えてください。
背景となる実写映像の撮影、 編集、 現像、そしてアニメキャラクター達の合成です。
久野さんとのコラボレーションはいかがでしたか?Cuusheから特に要望などありましたか?
本企画について意図的に情報量を少なめに伝えてストーリーボードを着手してもらったのですが、初手から驚くほど理解度の深いものを上げてもらったことに驚きました。一応都会的なイメージの曲だったので舞台は都会の夜が良いかな?みたいなやり取りは初期の頃ありました。が、最終的な装いはガラッと変わりました。
音源を初めて聞いた時にどのような映像や感情が頭に思い浮かびましたか?それは完成品に反映されていますか?
まず始まりは冷たく時間の止まった世界を連想し、後半はそこからの脱出をイメージしました。そういった第一印象がMVにもダイレクトに反映されていると思います。
今回映像を制作するにあたって、何か新しく試みたことなどはありますか?
手法的な点については細かく述べると数限りないですが、大きくはロケーションのスケール感と、絵的な良さと実在感の中間を狙ったアニメキャラクター達の合成処理の二点ではないかと思います。
BjorkのJogaを彷彿とさせる、壮大なスケールの風景に圧倒されます。今までの作品では都会的なイメージやモチーフを主に使われていましたが、今回このような大自然のひらけたビジュアルを用いた理由はなんですか?
冒頭の吹雪のカットが撮れた時、ここから抜け出そうとする女の子の物語を作ったらこのMVのテーマとして良さそうだなと思ったのが始まりです。
作品制作において、音楽は田島さんの作る映像をどのようにインスパイアしますか?
フワッとしたイメージをより鮮明にしてくれる装置かなと。
田島さんにとってミュージックビデオと、それ以外のコマーシャルな映像作品との違いはなんでしょうか?
例外もありますが、ザックリ言うとコマーシャルは商品やサービスの魅力を視聴者に的確に伝えるための“機能 ” を優先させた映像です。同じくミュージックビデオも曲の世界観や魅力を映像を通して視聴者に伝えるための装置ではありますが、こちらはその曲に対する僕の主観が割と強めに反映されているかもしれません。
イラストレーター、アニメーター、久野遥子さん
”Airy Me”から今回の”Waken”に至るまで、また短い映像作品を含め、 Cuusheの音楽と久野さんの描く絵と映像は、切って切り離せない存在になっています。 Cuusheの音楽との出会いについて教えてください。
学生時代、友だちからMySpaceというSNSを教えてもらいいろんな音楽を探していたのですが、そのときCuusheさんの音楽、”Airy Me”を見つけました。なにか物語を感じるこの曲にアニメーションをつけてみたいと思い卒業制作の発端となりました。
カバーアートについてお伺いします。『Butterfly Case』が集会、『Night Lines』が葬式なら、『Waken』のイラストのテーマはなんでしょうか?
表面のテーマは脱皮です。 背面には自分が狩った神獣の毛皮を着て女の子がファッションショーをしています。 どう猛さの獲得とファンタジーからの卒業をイメージしました。
“Magic”は田島さんとのコラボレーションにより実現した映像作品となっています。久野さんの担当した部分を教えてください。
アニメ部分のコンテと実写上に置く用のアニメの素材を担当しました。
田島さんとのコラボレーションはいかがでしたか?
不思議な謎かけを出されたような楽しさがありました。その上でどんなアイディアにもビジュアルで応えて下さりました。 実写に存在感を持って佇むキャラクターたちのコンポジットも素晴らしく、 ご一緒できて本当に良かったです。
音源を初めて聞いた時にどのような映像や感情が頭に思い浮かびましたか?それは完成品に反映されていますか?
Cuusheさんから曲を作った経緯などを伺っていたこともあったのですがもともとは現代の都会の女の子の友情の曲だと思っていました。 夜、ネオンの中2人で走るようなイメージです。ただ結果として都会の真反対の広大な風景の中で軽やかなシスターフッドを匂わせる一瞬があっても面白いと思い、今のようなバランスの構成になっています。
アーティストから特に要望などありましたか?
特にありませんでした。なので本当に自由に作らせて頂きました。
”Airy Me”と”Magic”の共通点は、誰かとのつながりを求め、つながり、新しく生まれ変わることと、映像から読み取りました。 Cuusheの新作『Waken』の命題にも関わるこちらのテーマですが、今回ストーリーを作る上で特に意識したことはありますか?
物語を考える上で、例えどう猛な化け物になってしまうとしても、変化を恐れない姿を描こうと思っていました。起きていることは”Airy Me”と似ているのですが、基本的にはそれを能動的でポジティブに描いています。 舞台に関しても、ファンタジックな閉鎖空間の”Airy Me”に対して、どこまでも広く現実そのものの”Magic”というように。反転性があるかなと。
登場するキャラクターについて、何かディテールなどありましたら教えてください。
実写の風景がチベットということで、田島さんからチベットの民話の本を頂いたので、それを参考にした部分が多いです。動物同士が食べたり食べられたりする物語が多い中で、ねずみが人の子を産み優しく育てる話が印象深かったので主人公の女の子の相棒にねずみを選びました。
二人のクリエイティビティとCuusheの音楽が見事に結実したこちらの映像作品。完成した映像を見て、Cuusheは何を思ったのでしょうか。
「初めて見た時とてつもなく美しい風景に鳥肌が立って、そこにアニメーションが溶け込んでいるのが綺麗で不思議でまるで心が浄化されるように感じました。最後の女の子ふたりが向き合う瞬間涙が出ていました。」
Cuusheの7年ぶりの最新アルバム『Waken』は11月20日にflauよりリリース。予約はこちらから。